VUCA時代とは?企業がいま取り組むべき課題と対応策、
求められる人材を解説

VUCA時代とは?
企業がいま取り組むべき課題と
対応策、求められる人材を解説

現代のビジネス環境は、先行きが読みづらい「VUCA」と呼ばれる時代に突入しています。市場の変動が激しく、不確実性や複雑性、曖昧さが増すなか、従来の意思決定プロセスでは変化に迅速かつ柔軟に対応することが難しくなっています。

VUCA時代に競争優位性を確保するには、環境の変化に迅速に対応できる組織体制と柔軟な意思決定が欠かせません。

本記事では、VUCA時代に企業が取り組むべき課題や具体的な対応策、求められるスキルや人材像を詳しく解説します。変化の激しい時代を生き抜くためのヒントを探している方は、ぜひ参考にしてください。
 

VUCAとは

「VUCA(ブーカ)」とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を組み合わせた造語です。予測が困難な現代の社会状況やビジネス環境を表す概念として、世界中で広く用いられています。

もともとは、1980年代後半にアメリカ軍が冷戦終結後の不安定な国際情勢を表現するために使用しはじめた軍事用語でした。やがて経営やマネジメントの分野でも注目されるようになり、2010年代以降は企業の戦略立案や人材育成のキーワードとして定着しました。

経営者やマネージャーにとっては、曖昧で複雑な時代における的確な判断力や柔軟な思考がこれまで以上に求められています。
 

Volatility(変動性)

Volatility(変動性)とは、環境変化の速度や振れ幅が過去と比べて著しく大きくなっている状況をさします。現代の市場では、数日から数週間という短期間で情勢が激変することも珍しくありません。

新型コロナウイルスの感染拡大時には、株価の急落と急回復、リモートワークの急速な普及、オンライン需要の増加など、かつてない規模の変化が同時に生じました。また、AI技術の進化や消費者ニーズの多様化も、企業にとって予測が難しい変動要因です。

このような変化に対応するには、現場レベルでの柔軟な判断と迅速な意思決定体制が求められます。
 

Uncertainty(不確実性)

Uncertainty(不確実性)とは、過去のデータや経験則では将来を予測できない状況をさします。従来の計画手法や予測モデルが通用しない事象が頻発し、企業にとって戦略立案が一層難しくなっています。

国際情勢の悪化による資源価格の急騰や、生成AIの台頭による雇用構造の変化は、その影響や展開を予測することが困難です。気候変動問題やパンデミックなどのグローバルな課題も同様です。

こうした時代では、あらかじめ不確実性を織り込んだ柔軟な計画立案と、変化に応じて判断を適宜見直すためのプロセスの構築が欠かせません。
 

Complexity(複雑性)

Complexity(複雑性)とは、様々な要因が複雑に絡み合い、単純な因果関係では説明できない状況をさします。現在のビジネス環境では、ひとつの出来事が複数の分野に連鎖的に影響を及ぼすことがあります。

グローバルサプライチェーンの場合、世界中の企業が密接に連携しているため、ひとつの部品の遅延が別の地域での生産停止を招くこともあります。海外展開時は、異なる文化や法制度を理解し、複雑な要因を的確に判断する能力が必要です。
 

Ambiguity(曖昧性)

Ambiguity(曖昧性)とは、同じ事象であっても複数の解釈が存在し、明確な正解がひとつに定まらない状況をさします。立場や価値観の違いにより、見え方や判断が大きく異なる点が現代社会の特徴です。

例えば、ある企業にとっては働き方改革が生産性向上の成功例とされる一方で、別の企業では従業員のモチベーション低下を招く要因と見なされることがあります。

曖昧な環境下では、唯一の正解を求めるのではなく、様々な視点から問題を捉え、状況に応じて柔軟に最適な選択を行う姿勢が重要です。
 

VUCAが注目される社会的背景

VUCAがビジネスの場で注目を集めるようになったのは、2010年代以降のことです。特に2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「VUCAワールド」という表現が用いられたことで、VUCAの認知が国際的に拡大しました。

近年は新型コロナウイルスのパンデミック、AI技術の飛躍的発展、気候変動の深刻化など、予測が難しく従来の経営手法では対応が困難な事象が頻発しています。

グローバル化の進展により相互依存関係が深まった現代社会では、ひとつの変化が即座に世界規模で影響を及ぼすため、企業が不確実性に強い経営力を備えることが急務となっています。
 

VUCAの時代に起こること

VUCA時代の到来により、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。以下では、現代のビジネス環境で実際に起こっている3つの現象について、詳しく解説します。
 

想定外の出来事が頻発する

現代社会では、過去の経験や蓄積されたデータをもってしても予測できない出来事が次々と発生しています。

世界的なパンデミックによる経済活動の停止、異常気象が引き起こす工場稼働の中止、国際紛争によるサプライチェーンの寸断など、企業の危機管理計画を大きく上回る事態が頻発しているのが現実です。

また、働き方や価値観の変化、消費者行動の移り変わり、業界を揺るがす技術革新も単純な予測では捉えきれない複雑さを持っています。このような環境では、完璧な準備を目指すよりも、起こりうる変化に柔軟に対応し、そこから素早く学ぶ力が企業の持続的な成長や存続を左右します。
 

業界の常識を覆す新サービスが誕生する

VUCA時代には、既存の業界構造を覆す革新的なサービスが次々と登場しています。例えば、配車サービスを提供する会社は、自社で車両を保有することなくタクシー業界に参入し、宿泊仲介会社は施設を所有せずにホテル業界に大きな影響を与えました。

これらのサービスは、従来の企業が築いてきた設備投資や人材育成などの参入障壁に阻まれることなく、新たな市場を創出しています。同業種以外との競争が常態化している現在の環境は脅威である反面、既存の概念にとらわれない企業にとっては大きな成長の機会でもあります。
 

従来のビジネスモデルが通用しなくなる

技術革新が進んだことで、企業の強みであった経営資源がかえって制約となる「資産の負債化」現象が各業界で発生しています。

大規模な製造設備、専門技術を持つ人材、長年蓄積した業界ノウハウなどが、デジタル技術の進歩によって急速に価値を失う可能性があるのが現代社会です。

また、オフィス勤務から在宅勤務への移行、店舗販売からオンライン販売への転換、対面サービスから非接触サービスへの変化など、あらゆる業種でビジネスモデルの再構築が求められています。

今日の常識が明日には通用しない時代においては、既存の枠組みに依存せず、変化に柔軟に対応できる組織構造と事業モデルが不可欠です。
 

VUCA環境で企業が取り組むべき3つの対応策

VUCA時代の予測困難な環境変化に対応するためには、組織体制の見直しと新たな経営アプローチの導入が必要です。

以下では、企業が優先的に取り組むべき3つの対応策について詳しく解説します。

  • ビジョンの明確化と社内共有
  • 継続的な情報収集と迅速な意思決定
  • DXの推進と人材の育成
     

ビジョンの明確化と社内共有

変動性や不確実性の高い時代では、細部にわたる計画よりも、進むべき方向性を明示することがより重要です。企業が一貫した判断を下すためには、組織全体で共有される明確なビジョンの存在が欠かせません。

ビジョンは経営層だけが掲げるスローガンではなく、現場の意思決定の基準として日常的に機能する必要があります。そのためには、全従業員がビジョンの意味を理解し、自身の業務との関係性を認識できる状態を整えることが大切です。
 

継続的な情報収集と迅速な意思決定

変化のスピードが加速するなか、企業は常に市場や社会の動向を観察し、小さな兆しにも素早く対応できる力を養う必要があります。大きな変化は突然ではなく、小さな変化の積み重ねから生まれるため、日常的な情報収集と分析の習慣が鍵を握ります。

また、情報の信頼性や偏りを見極めるリテラシーも重要です。多角的な視点で情報を検証し、必要に応じて素早く意思決定を行うことで、変化に先んじた対応が可能になります。
 

DXの推進と人材の育成

VUCA環境下では、デジタル技術を活用した業務改革と迅速な意思決定支援が不可欠です。DX推進によって定型業務の自動化を進めることで、人的リソースをより創造的かつ戦略的な業務に集中させることが可能になります。

同時に、変化する環境に対応できる人材の育成も急務です。主体的に課題へ取り組み、様々な価値観と協働できる力、学び続ける意欲を持った人材が、企業の持続的な成長を支える重要な資産となります。

 

VUCA時代に求められるスキルと人材

VUCA時代に求められるスキルと人材は以下のとおりです。

  • 情報収集能力と情報処理能力
  • 仮説を立てて正解へと導く思考力
  • 分析した情報をもとに決断・行動する力
  • 変化をチャンスと捉えるリーダーシップ

それぞれ詳しく解説します。
 

情報収集能力と情報処理能力

新しい技術や業界動向をいち早く把握し、自社に与える影響を先読みする力は、企業の継続的成長に直結します。ただし、単に情報を多く集めるのではなく、信頼性の高い情報源を見極め、必要な情報を選別する力が必要です。

また、膨大な情報のなかから必要な要素を抽出し、課題解決に活かす力も求められます。変化のスピードが増す現代では、情報収集から判断までの時間を短縮し、小さな兆しを逃さない観察力を養うことが重要です。
 

仮説を立てて正解へと導く思考力

VUCA時代では過去の成功例が必ずしも通用するとは限らないため、不足する情報を自ら補いながら判断する姿勢が求められます。与えられた情報だけに依存せず、自分自身で仮説を立てて検証し、最適な答えを導く力が必要です。

また、AIの進化によって多くの業務が自動化されるなかで、人間ならではの経験や感情から生まれるアイデアの重要性が高まっています。AIが苦手とする「ゼロからアイデアを生み出す」分野を人間の手で補うことで、AIとの共存が実現につながります。
 

分析した情報をもとに決断・行動する力

変化の激しいVUCA時代では、情報が十分に揃うまで待っていては意思決定のタイミングを逃す可能性があります。十分な検討時間を確保している間に状況が変化し、集めた情報が無駄になることがあるため、速度と精度を両立させた意思決定能力が今後の競争力を左右します。

また、完璧な解決策が存在しない前提であっても、現時点でのベストな選択を行い、それを実行に移す行動力が不可欠です。失敗を恐れるのではなく、挑戦から学びを得て次に活かす姿勢が、継続的な成長と企業価値の向上を支えます。
 

変化をチャンスと捉えるリーダーシップ

従来の成功体験に固執し、変化を恐れていては、VUCA時代において組織の成長は期待できません。こうした環境下では、変化をポジティブに受け止め、挑戦の機会として活かせるリーダーシップが求められます。

自らが変化に前向きに取り組む姿勢を示すことで、組織全体に柔軟性が生まれ、メンバーの挑戦意欲も引き出されます。不確実性のなかでも方向性を示し、希望を与えつつ明確な方向に導けるリーダーこそが、いまの時代を牽引する存在です。
 

意思決定スピードを高める「OODAループ」とは

OODA(ウーダ)ループとは、米空軍のジョン・ボイド氏が提唱した意思決定のためのフレームワークです。

以下の4つのステップを循環させることで、意思決定の質を高めていきます。

  • 観察(Observe):情報を集めて現状を把握する
  • 状況判断(Orient):経験や知識をもとに意味付けを行う
  • 意思決定(Decide):対応の方針を決定する
  • 行動(Act):実際に行動して次の観察フェーズに移行する
     

PDCAとの違いとVUCA時代に選ばれる理由

OODAループとPDCAサイクルはいずれも改善や意思決定のための手法ですが、それぞれ前提とする環境や目的が異なります。

PDCAは「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)」の順で進む管理型のアプローチで、安定した環境下での継続的な業務改善に適しています。あらかじめ目標が明確であることを前提としており、計画を重視し、段階的に実行することを基本としています。

一方、OODAループは「観察」からスタートし、得られた情報をもとにその都度判断し、迅速に行動できる点に特徴があります。目まぐるしく状況が変わるVUCA時代には、柔軟な思考と即応力が求められるため、OODAのような意思決定手法が有効とされています。
 

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2026年2月25日(水)~27日(金) ポートメッセなごや

■【東京・春】総務・人事・経理Week
2026年6月17日(水)~19日(金) 東京ビッグサイト
 

VUCA時代に対応できる柔軟な組織を目指そう

不確実性が増す現代においては、組織の生存と成長には柔軟な対応力が不可欠です。今後ますます変化が激しくなる社会を見据え、まずは自社のビジョンを明確にし、必要な情報を能動的に収集することが求められます。

VUCA時代には、情報処理能力、仮説思考力、行動力などのスキルを備えた人材が求められます。社員一人ひとりが状況を的確に判断し、自律的に行動できる環境づくりがVUCA時代の競争優位性の鍵となります。

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■監修者情報

古田 文子(ふるた ふみこ)

飲食店や販売業、メーカーやコールセンターなど、様々な職種の転職を経験し、マナーやコミュニケーションを学ぶ。現在は企業やNPO団体などでセミナー講師、キャリアカウンセリング、心理カウンセリング、中学校から大学までの就職ガイダンス講師として従事。

保有資格:国家資格キャリアコンサルタント、心理相談員、メンタル心理カウンセラー、上級心理カウンセラー、チャイルドカウンセラー、不登校訪問支援カウンセラー、おもちゃインストラクター、調理師、放課後児童クラブ支援員