アンガーマネジメントとは?
メリットや注意点、簡単にできるやり方を解説

アンガーマネジメントとは?
メリットや注意点、
簡単にできるやり方を解説

2020年に施行されたパワーハラスメント防止法により、職場では感情を適切に管理する重要性がこれまで以上に高まっています。怒りをコントロールできないことで、部下や同僚との関係が悪化し、生産性の低下につながるケースも少なくありません。

本記事では、アンガーマネジメントの基本的な考え方から導入のメリット、具体的な実践方法まで詳しく解説します。感情に左右されず冷静に判断できる力を身につけ、誰もが安心して働ける職場環境の実現を目指しましょう。
 

アンガーマネジメントとは

アンガーマネジメントとは、怒りの感情をコントロールするための心理的な技法です。1970年代にアメリカで生まれ、当初は軽犯罪者の再教育プログラムとして導入されましたが、現在では企業研修や学校教育など様々なシーンで活用されています。

アンガーマネジメントは「怒らないこと」を目的とするのではなく、「怒るべき場面では適切に怒り、そうでない場面では感情を抑える」という判断力を養うことを目指しています。

怒りは誰にでもある自然な感情であり、完全になくすことはできません。そのため、怒りと建設的に向き合い、自分自身や周囲の人にとってプラスとなる行動に変えていくスキルを身につけることが求められます。
 

アンガーマネジメントが重要視される背景

アンガーマネジメントが注目される背景には、職場でのハラスメント問題の深刻化と働き方の多様化が挙げられます。

厚生労働省の「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、ハラスメント問題で最も多く報告されているのはパワハラです。

また、2020年のパワハラ防止法施行により、企業には感情コントロールに関する研修の実施が求められるようになりました。加えて、リモートワークやオンライン会議の普及などにより働き方の多様化が進み、意思疎通の難しさや感情的な摩擦が起こりやすくなっています。

こうした環境のなかで、感情をうまく管理し、建設的なコミュニケーションを実現するためのスキルとして、アンガーマネジメントが重視されています。

※出典:厚生労働省「令和5年度 厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書」
 

怒りが生まれるメカニズム

怒りは本来、危険から自分を守るための防衛反応として備わっている感情です。人類の生存本能と深く結びついた原始的な反応のひとつであり、必ずしも否定的に捉えるべきものではありません。

しかし、現代社会においては、その怒りが不要な対立や誤解を生む原因となることもあります。以下では、怒りの感情が生じて顕在化するまでの過程について解説します。
 

怒りの背後にある一次感情

心理学では、怒りは「二次感情」として分類されます。これは、怒りの背後に「一次感情」と呼ばれる別の感情が内包されていることを意味します。

一次感情とは、悲しみ・不安・苦しみ・恐怖・寂しさなど、怒りの背後にある本質的な感情のことです。一次感情による感情的負荷が限界を超えた時、二次感情である怒りとして表面化します。

そのため、表面的な怒りに反応するのではなく、その背後にある一次感情に目を向けることが、アンガーマネジメントにおける重要なポイントです。
 

怒りを生み出す「こうあるべき」の思考

怒りは、自分のなかにある「こうあるべき」という価値観と現実とのズレによって生じやすい感情です。「部下は指示にすぐ従うべき」「会議は時間どおりに始まるべき」などの理想が期待どおりにいかない時、人は不満や苛立ちを覚えやすくなります。

また、怒りは距離の近い相手ほど強くなりやすく、上下関係のある場面では、上位者から下位者へと感情が向けられやすいことが特徴です。互いの違いを受け入れ、「~すべき思考」にとらわれない姿勢を持つことで、怒りの感情をコントロールできるようになります。
 

アンガーマネジメントのメリット

アンガーマネジメントを導入することで得られるメリットは、以下のとおりです。

  • 自分を客観的に見られるようになる
  • チーム内の対話がスムーズに進む
  • パワハラ・モラハラの抑制につながる
  • 生産性の向上や離職率の低下に貢献する

それぞれ詳しく解説します。
 

自分を客観的に見られるようになる

アンガーマネジメントを実践すると、自分の怒りの傾向を客観的にとらえられるようになります。感情が動揺しやすい状況を把握できれば、冷静さを保ちやすくなり、衝動的な反応を減らすことが可能です。

また、自己分析を通じて自分の価値観や行動パターンへの理解も深まります。これまで無意識に行っていた言動のパターンに気づくことで、感情を整えるだけでなく、自己理解や行動の改善にもつながります。
 

チーム内の対話がスムーズに進む

感情の起伏が激しい人がチーム内にいると、周囲は無意識のうちに距離を置くようになります。その結果、チーム全体の協働意識が薄れ、生産性の低下や人材の流出につながる可能性が高まります。

アンガーマネジメントを組織全体で導入することで、メンバー間の相互理解と配慮が促進されるのがメリットです。心理的安全性のある職場では、率直な意見交換や相談がしやすくなり、組織全体の生産性が向上します。
 

パワハラ・モラハラの抑制につながる

リーダーや管理職が感情を適切に管理できるかどうかは、職場の雰囲気に大きな影響を与えます。感情任せに部下を叱責すると、自主性を損ない、緊張感が蔓延する職場になりかねません。

部下が上司の顔色を過度に気にするようになれば、コミュニケーションは閉ざされ、業務効率も低下してしまいます。アンガーマネジメントを導入すれば、立場に関係なく全員が感情をコントロールするスキルを習得でき、お互いを尊重し合う健全な職場環境を築くことができます。
 

生産性の向上や離職率の低下に貢献する

怒りに支配された状態では、冷静な判断を下したり、効率的な行動を取ったりすることが難しくなります。人間関係の悪化により情報共有が滞り、チーム内の連携が取りづらくなるケースも少なくありません。

一方、感情が穏やかに保たれている環境では、相互理解が進み、業務も円滑に進みます。互いに信頼し合える関係ができれば、自然と前向きな協力体制が整い、生産性の向上につながるでしょう。

また、働きやすいと感じられる職場では、優秀な人材の定着も期待できます。
 

アンガーマネジメントの注意点

アンガーマネジメントは、感情のコントロールを通じて職場環境の改善を図る有効な手段です。しかし、その考え方を誤って理解・運用してしまうと、かえって逆効果になるおそれもあります。

以下では、アンガーマネジメントを取り入れる際に特に注意したいポイントを紹介します。
 

怒りを抑え込むことが目的ではない

アンガーマネジメントは、「怒りを完全に抑え込むこと」が目標ではありません。「怒ってはいけない」と自分に言い聞かせて感情そのものを抑え込もうとすると、心身に大きなストレスがかかります。

アンガーマネジメントの本来の目的は、怒りと冷静に向き合い、それが表現すべき感情かどうかを判断する力を養うことにあります。感情が高ぶった時には、まず心を落ち着かせ、その怒りが何に起因しているのかを見極めましょう。

組織として導入する場合は、本来の定義や目的について関係者全員で共通認識を持つことが大切です。
 

感情を我慢し続けるリスクに注意する

アンガーマネジメントの運用を誤ると、モチベーションの低下を招く可能性があります。例えば、怒りや悔しさを原動力に成果を上げてきた人にとっては、過度な感情の抑制がパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性もあります。

怒りの感情は、状況によっては前進のエネルギーとなるため、完全に抑制しようとすると逆効果となり、自発性や行動力を失ってしまうかもしれません。

また、強いストレスの背景に職場環境の問題がある場合には、アンガーマネジメントだけに頼るのではなく、ストレスの源となる問題を特定し、改善する必要があります。感情面と環境面の両方からバランスよく対処していくことで、より本質的な職場改善が実現します。
 

アンガーマネジメントの実践方法

アンガーマネジメントの主な実践方法は以下のとおりです。

  • 6秒間待って冷静になる
  • 「怒りの記録」をつけて可視化する
  • 怒りの原因から離れる
  • 固定観念を見直す

これらの手法は単独でも効果がありますが、組み合わせて活用することで、より高い効果が期待できます。重要なのは、自分に最も適したやり方を見つけ出し、継続的に実践することです。

実際の状況に応じて柔軟に使い分けられるよう、普段から意識的に練習しておきましょう。
 

6秒間待って冷静になる

怒りの感情が生じてから冷静さを取り戻すまでには、おおよそ6秒かかるとされています。この短い時間内に取った感情的な言動が、人間関係のトラブルや後悔を招く主な要因です。

怒りを感じた瞬間は、まず深く息を吸って吐き出しましょう。腹式呼吸を意識すると、身体がリラックスし、思考も安定します。6秒の短い時間を有効活用することで、感情をそのまま言葉や行動に表すべきかどうかを冷静に判断できるようになります。
 

「怒りの記録」をつけて可視化する

自分の怒りの傾向を客観的に把握するためには、感情が高ぶった場面を詳細に記録することが有効です。

「いつ、どこで、誰に、なぜ怒りを感じたのか」「その時の感情を数値で評価するとどの程度だったか」を記録し続けると、自分の怒りの傾向が見えてきます。

記録を見返すことで、特定の人物や状況に対する感情の傾向が把握でき、事前に予防策を立てることが可能になります。また、記録をつける行為そのものが、その場での感情の整理に役立つという点も重要です。
 

怒りの原因から離れる

感情が高ぶった時には、その場を一時的に離れることも選択肢として考えましょう。怒りの原因となっている環境に留まり続けると、感情がさらに悪化するリスクがあるため、物理的に距離を置くことが大切です。

トイレや給湯室に行く、別の業務を理由にデスクを離れる、外の空気を吸うなど、できる範囲で距離を取りましょう。これは「逃げ」ではなく、自分の感情を冷静に整えるための戦略的な行動です。
 

固定観念を見直す

怒りの根本的な原因のひとつとして、自分のなかにある「こうあるべき」という価値観と現実とのギャップがあります。この期待が外れた時、人は強い怒りの感情を抱きやすくなります。

「普通はこうするものだ」「当然こうすべきだ」といった自分のなかの常識を一度疑ってみることで、自分にとっての当たり前が他人にとっては異なることに気付くきっかけになるでしょう。
 

アンガーマネジメントを導入する際のポイント

アンガーマネジメントを職場に導入する際には、効果的に運用するために重要な視点をいくつか押さえておくことが大切です。以下では、アンガーマネジメント導入を成功させるための具体的なポイントを2つの観点から解説します。
 

全社員を対象とする

アンガーマネジメントの導入にあたっては、管理職だけでなく新入社員を含む全ての階層を対象とすることが重要です。入社初期段階から感情コントロールスキルを習得することで、将来のリーダー候補として必要な資質を早期に育むことができます。

一般社団法人日本能率協会の「2024年度 新入社員意識調査」では、仕事をしていく上での不安として「上司・同僚など職場の人とうまくやっていけるか」が最も多く挙げられました。

職場での怒りの多くは、価値観や期待のギャップによって生じます。上司の「新人はこうあるべき」という考えと、新入社員の「上司はこうあるべき」という認識のギャップが感情的摩擦の原因となるため、全社員が相互理解を深める機会を設けることが大切です。

※出典:一般社団法人日本能率協会「2024 年度 新入社員意識調査」
 

社内研修や外部プログラムを活用する

アンガーマネジメントの理解と定着を促進するには、段階的かつ体系的に学べるプログラムの導入がおすすめです。社内研修では、怒りの心理的メカニズムの理解から自己分析、具体的なコントロール技術の習得までを段階的に学べる構成が求められます。

また、専門機関が提供する外部講座やセミナーに参加することで、より実践的かつ体系的なスキルを効率的に習得できます。他社の導入事例や成功パターンを知る機会にもなり、自社の課題解決に向けたヒントを得やすくなるでしょう。

特に人事・労務関連の展示会などでは、アンガーマネジメントの専門家による講演や相談会が実施されており、自社に適したプログラム設計の参考にしやすくなります。
 

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教育・研修プログラムを探そう

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■【関西】総務・人事・経理Week
2025年11月19日(水)~21日(金) インテックス大阪

■【名古屋】総務・人事・経理Week
2026年2月25日(水)~27日(金) ポートメッセなごや

■【東京・春】総務・人事・経理Week
2026年6月17日(水)~19日(金) 東京ビッグサイト
 

アンガーマネジメントを実践して
働きやすい職場を作ろう

アンガーマネジメントは単なる感情抑制ではなく、現代のビジネスパーソンにとって重要なスキルのひとつです。怒りの感情をうまくコントロールすることで、ハラスメントの防止、チーム内コミュニケーションの向上、組織全体の生産性向上を実現できます。

「6秒間待つ」「感情の記録をつける」などの実践的な手法を日常に取り入れて、感情に振り回されない冷静な判断力を身につけることが大切です。

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■監修者情報

古田 文子(ふるた ふみこ)

飲食店や販売業、メーカーやコールセンターなど、様々な職種の転職を経験し、マナーやコミュニケーションを学ぶ。現在は企業やNPO団体などでセミナー講師、キャリアカウンセリング、心理カウンセリング、中学校から大学までの就職ガイダンス講師として従事。

保有資格:国家資格キャリアコンサルタント、心理相談員、メンタル心理カウンセラー、上級心理カウンセラー、チャイルドカウンセラー、不登校訪問支援カウンセラー、おもちゃインストラクター、調理師、放課後児童クラブ支援員