ハラスメントとは?
意味や種類、企業が実施すべき対策、対応方法を解説
ハラスメントとは?
意味や種類、企業が実施すべき対策、
対応方法を解説
ハラスメントとは嫌がらせのことです。「指示を出す」「結果に差が生じる」といったことが日常的に見られる職場は、ハラスメントが起こりやすい場所といえます。
本記事では、職場で見られるハラスメントの種類や判断基準、対策を解説します。また、ハラスメントが起こった時は、問題解決と当事者のケアのために迅速な対応が必要です。企業が取るべき対応も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ハラスメントの定義
ハラスメント(harassment)とは嫌がらせやいじめを意味する言葉です。人の尊厳を不当に傷つける社会的に許されない行為をさして、ハラスメントと呼ぶことがあります。
職場においてもハラスメントは存在します。例えば、不必要に相手を傷つけたり不快にさせたりする言動はハラスメントです。上司や先輩といった「上」の立場の言動だけでなく、同僚や部下、後輩の言動もハラスメントになり得ます。
職場でよくあるハラスメントの種類
職場では、以下のようなハラスメントが見られることがあります。
ハラスメントの種類 |
概要 |
パワーハラスメント |
優越的な関係を背景とした嫌がらせ行為や発言、職場環境の悪化など |
マタニティハラスメント |
妊娠や出産に関する嫌がらせ行為や発言、解雇など |
セクシュアルハラスメント |
性的な言動による嫌がらせ行為や発言、職場環境の悪化など |
ジェンダーハラスメント |
性別を理由とする嫌がらせ行為や役割分担、発言など |
モラルハラスメント |
人格や尊厳を傷つける行為や発言、職場環境の悪化など |
アルコールハラスメント |
飲酒の強要、飲めない人への配慮を欠くこと、酔った上での迷惑行為など |
ホワイトハラスメント |
部下や後輩に過小な要求をすることや成長の機会を奪うこと |
カスタマーハラスメント |
顧客やクライアントからの不当なクレームや言動など |
上司・部下といった上下関係を背景としたパワーハラスメントや、相手の状況や性別に基づくマタニティハラスメントやセクシュアルハラスメントなども職場で起こり得る嫌がらせ行為です。
また、職場内だけでなく職場外からハラスメントが生じることもあります。例えば、顧客やクライアントなどからカスタマーハラスメントを受けることもあるかもしれません。
ハラスメントの判断基準
精神的・身体的な苦痛や居心地の悪さを感じ、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じる時は、その原因となる行為を「ハラスメント」と判断することが一般的です。
ただし、ハラスメントの種類によって判断基準は異なります。
例えば、職場において下記の①から③までの全ての要素を満たしたと判断されるとパワーハラスメントと考えられます※。
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③ 労働者の就業環境が害された時
※出典:厚生労働省「ハラスメントの定義」
ハラスメントに関連する法律
職場で起こりやすいハラスメントは、様々な法律で判断基準や実施すべき対応・対策が規定されています。主な法律を紹介します。
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)
2019年に改正された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下、労働施策総合推進法)」は、職場でのパワーハラスメント防止対策の実施を事業者に義務付ける法律です。そのため、「パワハラ防止法」とも呼ばれています。
また、労働施策総合推進法では、パワーハラスメントについて相談したことを理由として相談者にとって不利益となる取扱を行うことも禁じられました。例えば、上司のパワハラを社内の相談窓口に相談したことで、希望しない部署に配置転換されたり、昇進が遅れたり降格されたりすることは違法といえます。
ただし、上司や先輩の指示・指導の全てがパワハラではありません。客観的に見て業務上必要だと思われる指示や指導は通常範囲内の行為と判断します。
男女雇用機会均等法
「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、男女雇用機会均等法)」は、性別に関係なく雇用や待遇を決めることを定める法律です。
例えば、「女性だから」という理由によって差別的な取り扱いをすることは、男女雇用機会均等法で禁じられています。
結婚や妊娠、出産した女性に退職を勧めることや解雇することなど不利益な取り扱いをすることも、男女雇用機会均等法に反する行為です。また、男女雇用機会均等法では、セクシュアルハラスメント対策を事業者が実施することも定めています。
育児・介護休業法
「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児・介護休業法)」とは、就労と育児・介護を両立するための法律です。育児・介護休業法では、育児や介護を行う従業員に配慮することが事業者に求められています。
育児・介護休業法に基づき、妊娠や育児休業制度の利用と嫌がらせ行為に因果関係が見られる時は、ハラスメントと判断されることが一般的です。
業務分担や安全配慮のための行為と客観的に判断される場合はハラスメントとはみなされませんが、労働者の意を汲まない一方的な行為の場合はハラスメントとなる可能性がある点に注意が必要です。
企業に求められるハラスメント防止策
職場でハラスメント行為が起こると、労働者の就業意欲を著しく低下させます。直接の被害者となる労働者だけでなく、周囲の労働者の意欲も削ぐため、生産性や成果物の質の低下などが見られるようになり、企業としても大きな損失を被るでしょう。
また、人材流出が生じたり、雇用希望者が減少したりする恐れもあります。社内外から見て魅力的な職場を構築するためにも、ハラスメント防止策の実施が必要です。ここでは、主な防止策を紹介します。
業務量や業務フローの見直し
労働者の人数や能力に対して業務量が多すぎると考えられる場合は、過剰な要求が増え、パワーハラスメントを招く恐れがあります。また、納期に余裕がない場合や業務手順が適切ではない時も、労働者に過剰な負担を強いる指示を上司が出すことになりかねません。
パワーハラスメントが生じにくい職場にするためにも、業務量や業務フローが適切か定期的に見直すことが必要です。業務量が多すぎる場合は、人員増強やアウトソーシングサービスの利用も検討しましょう。
ハラスメント研修の実施
倫理観や価値観は時代とともに変化していきます。以前なら仕方のないことと受け取られていた事柄も、現在の基準ではハラスメント行為と判断されるかもしれません。
まずはどのような行為がハラスメントにあたるのか、全ての人が認識しておくことが大切です。特に職場では指示を出す役割を担う管理的立場にある人々は、ハラスメント行為をするリスクが高いと考えられます。ハラスメント行為をしないための具体的なポイントなどをハラスメント研修によって定期的に学ぶ必要があるでしょう。
また、管理的立場にない人々も、マタニティハラスメントやセクシュアルハラスメントと捉えられる発言や行動をする可能性があります。定期的にハラスメントを学ぶ機会を設け、誰にとっても居心地のよい職場環境づくりに配慮をすることが必要です。
風通しのよい職場づくり
コミュニケーションがしっかりととれている職場なら、誤解を生む恐れのある言葉も相手を不快にさせずに言えるかもしれません。指摘しやすい・されやすい職場にするためにも、風通しのよい職場づくりが大切です。
また、コミュニケーションがしっかりととれていれば、仲間意識が芽生えるため、相手に配慮した対応を自然ととれるようになります。ハラスメント行為が減り、働きやすい職場環境を構築できるでしょう。
相談窓口の設置
ハラスメントを受けた時にすぐに相談できる場を設置することも大切です。適切な相談の場があれば問題解決の道筋が立てやすく、トラブルが長引きにくくなります。また、ハラスメントに悩まされる当事者だけでなく周囲の人々も相談できる状態にしておくことで、解決までの時間をより一層短縮できるでしょう。
相談窓口を労働者が気軽に利用できるように、秘密厳守であることや個人の査定に影響しないことを周知しておくことも大切です。
社内人材で対応できない場合は、適切な資格を持つ人材を外部から採用するか、外部機関の利用も検討してみましょう。弁護士や社会保険労務士の事務所、ハラスメント専門のコンサルティング会社、社内問題の相談窓口代行会社などを利用できるかもしれません。
企業でハラスメントが発生した場合の対処法
企業でハラスメントが
発生した場合の対処法
ハラスメント対策を実施しても、社内でハラスメントが発生することもあります。万が一に備え、ハラスメントへの対処法をあらかじめ決めておきましょう。スムーズに対応できるだけでなく、トラブルの早期解決にもつながります。
事実関係を確認する
まずは速やかに事実関係を確認します。正確に状況を把握するためにも、ハラスメント行為を疑われる人とハラスメント行為を訴えている人のどちらかを一方的に信じることはせず、中立的な立場を保つことが大切です。
事実関係を確認する際に、ハラスメントの現場の目撃者や同席者といった第三者から話を聞く必要が生じるかもしれません。第三者もハラスメントの当事者である可能性もあるため、慎重に話を進めていくことが必要です。
第三者から話を聞くと、問題が外部に漏洩するリスクが高まります。トラブル拡大を回避するためにも、話を聞く第三者の人数を極力絞り、当事者だけでなく第三者にも守秘義務を理解してもらうように努めましょう。
事実に基づき処分を実施する
事実関係を確認し、ハラスメント行為が確かにあったことが明らかな時は処分を実施します。ハラスメント行為者に注意をする、ハラスメント行為を受けた人に謝罪させる、場合によっては配置転換や懲戒処分なども必要です。
また、ハラスメント行為への処分は、公正に実施しなくてはいけません。就業規則で解雇や減給の基準を定めておくようにしましょう。
ハラスメント行為があったとは断言できないものの、放置すると職場環境の悪化を招く恐れがある時は、当事者がどう行動すべきだったのか、具体的に示し、改善を促します。例えば、話し方や言葉遣いを変えることや、相手の立場に立って話を聞くことなどをアドバイスできるかもしれません。
関係者をフォローアップする
問題解決において企業として取り組んだことについて、当事者だけでなく関係者にも説明します。例えば、調査した内容や得られた情報、ハラスメント行為の有無と対応などをまとめておきましょう。
問題解決の後も定期的にフォローアップすることが必要です。適切なコミュニケーションを学ぶ機会を設けたり、状況に応じてアドバイスできる仕組みを構築したりしておきましょう。また、ハラスメントが繰り返されないためにも、適切な社内制度を構築することも必要です。
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ハラスメントはどの職場でも起こる可能性があります。ハラスメントが起こりにくい仕組みを構築するのはもちろんのこと、起こった時に迅速に対応できるようにしておくことが必要です。
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ハラスメントのない働きやすい職場環境をつくろう
ハラスメントは従業員の就業意欲を著しく削ぐ行為です。生産性の低下だけでなく離職率の増加や社会的信用の低下も招く、企業にとって不利益しかない行為といえます。
ハラスメントのない職場環境をつくるためにも、コミュニケーションのあり方や業務量などを見直してみることが必要です。また、相談窓口を設けるなど、ハラスメント行為に対して迅速に対応できるようにしておくことも大切です。
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■監修者情報
羽場 康高(はば やすたか)
社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。
HP:https://www.lifestaff.net/