ウェルビーイング(Well-being)とは?
意味や注目される理由、企業事例を解説
ウェルビーイング(Well-being)とは?
意味や注目される理由、企業事例を解説
職場や教育現場、福祉の現場などで、「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉が使われはじめています。ウェルビーイングとは、直訳すれば「よりよく生きること」ですが、個人や社会が幸せな状態や豊かさを感じることといった意味で使われることも少なくありません。
本記事では、ウェルビーイングの定義や注目される理由、企業がウェルビーイングを実現するメリットなどを解説します。よりよい職場環境を構築するためのヒントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ウェルビーイング(Well-being)とは?
ウェルビーイング(Well-being)とは、直訳すれば「よりよく生きること」や「よりよい状態で存在すること」ですが、様々な機関でより深い意味を持つ言葉として解釈されています。例えば、WHOでは「ウェルビーイングとは、個人や社会が経験するポジティブな状態」と定義されています。
また、文部科学省はウェルビーイングを「身体的・精神的・社会的によい状態にあること。短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念」「多様な個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じるともに、個人を取り巻く場や地域、社会が幸せや豊かさを感じられるよい状態にあることも含む包括的な概念」としています。
ウェルフェアやマインドフルネスとの違い
ウェルビーイングと類似した概念として、ウェルフェア(Welfare)やマインドフルネス(Mindfulness)が挙げられます。
ウェルフェアとは福祉のことです。福祉とは、社会的に弱い立場に置かれた人々が生きやすい社会を実現することをさすため、全ての人の生きやすさや幸せを追求するウェルビーイングとは対象が異なると考えられます。
一方、マインドフルネスとは「今この瞬間に集中している」状態のことです。瞑想によってマインドフルネスを目指したり、心身において健康な状態をマインドフルネスと表現したりすることがあります。
心身ともに健康である点はウェルビーイングと重なりますが、マインドフルネスは実現の主な手段を瞑想とするのに対し、ウェルビーイングではどの手法で健康を実現するかは本人次第です。つまり、主体性を持って各自が望む生き方を実現することがウェルビーイングともいえます。
主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイングの違い
ウェルビーイングは主観的と客観的に分けられることもあります。
主観的ウェルビーイングとは、各個人が自分の幸せを判断することです。主観的ウェルビーイングの指標としては、個人の幸福度や人生の満足度などが用いられることがあります。
例えば、相対的に周囲の人々よりも貧困や不健康な状態であったとしても、本人が生きる活力にあふれ、満足度の高い人生を歩んでいるなら、主観的ウェルビーイングは高いと考えられます。
一方、客観的ウェルビーイングとは、外部の基準に基づいて幸せを判断することです。GDP(国内総生産)や平均健康寿命、賃金、進学率などが、客観的ウェルビーイングの指標として用いられます。
例えば、GDPが高く、平均健康寿命が長い国・地域に住む人々は、客観的ウェルビーイングが高いと判断できます。しかし、その国・地域に住む個々の人々が幸せを感じているかは別問題です。客観的ウェルビーイングは高くとも主観的ウェルビーイングが低い、あるいはその逆はどの国や地域においても起こり得ます。
ウェルビーイングが注目されるようになった背景
ウェルビーイング自体は決して新しい概念ではありません。よく生きることや幸せを追求することは人間の本能ともいえるため、太古から存在する考え方ともいえます。
しかし、ウェルビーイングについて語られる機会が増えたのはごく最近です。ウェルビーイングがなぜ近年注目されるようになってきたのか、その背景を解説します。
物質の豊かさから心の豊かさへの価値観の変化
物質主義の価値観は多くの国・地域に経済的な成長をもたらしましたが、その一方で、経済格差の拡大や環境破壊といった問題を引き起こしています。効率性や利益を求めるだけでなく、その過程や物質の豊かさだけでは解決できない問題へ目を向けることの大切さに、多くの人々が気付きはじめているといえるでしょう。
また、経済的成長を追い求めることに限界が生じているのも事実です。経済的には恵まれていても、それだけで全ての人が幸福を感じられるわけではありません。物質の豊かさから心の豊かさへと価値観が変化していることも、よりよい状態を求めるウェルビーイングが重視されるようになってきた一因といえます。
労働者と企業による働きやすさを求める流れ
国や地域によっては、人手不足が深刻な問題です。十分な労働力を確保できずに事業拡大を断念せざるを得ない状況に陥ったり、事業活動の維持すら難しく、廃業に追い込まれたりするケースもあります。
企業の人材確保が難しくなるなか、就労の選択肢が広がり、自分に合う職場を選べるようになった労働者も増えてきました。働きやすい環境を提供することは、企業にとって人材確保のために必要不可欠な要素です。
企業にはウェルビーイングを実現できる職場環境づくりが求められているだけでなく、働き方でウェルビーイングの実現を求める人々が増えていると考えられます。
SDGsによるウェルビーイングの訴求
出典:国際連合広報センター「SDGsポスター(17のアイコン 日本語版)」
2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)では、2030年までに達成する誰一人として取り残さない目標として「全ての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」を掲げています。
また、他のSDGsの目標にも、貧困がなくなることや適切な医療を受けられるようになることなど、ウェルビーイングにつながる要素が少なくありません。SDGsの実現を目指す国や企業が増えるなか、ウェルビーイングへの注目が高まるのは自然なことといえるでしょう。
企業がウェルビーイングを実現するメリット
企業がウェルビーイングを実現することには、企業自体だけでなく、企業で働く従業員や社会全体にもメリットがあります。主なメリットを紹介します。
企業側のメリット
● 従業員のエンゲージメント向上 ● 離職率の低下 ● 生産性・利益率の向上 ● 優秀な人材の確保、採用コストの削減 |
企業がウェルビーイングを実現できる職場環境の構築に注力すれば、従業員は働きやすさや企業に対する愛着を感じるようになるため、エンゲージメントの向上を図れます。
ウェルビーイングへの取り組みが評価されるようになれば、社外からも働きやすい職場として認識されるようになります。優秀な人材を確保しやすくなる、就労希望者が増えて採用コストを削減できるといったメリットも得られます。
従業員側のメリット
● ライフプランの実現 ● 仕事や職場での満足度の向上 ● 幸福度の向上 ● 心身の健康維持 |
ウェルビーイングに注力した職場なら、従業員は各自のライフプランを実現しやすくなります。結婚や出産といった働き方にも影響が生じる可能性があるライフイベントを自分のペースで実施し、育児や家事との両立も図りやすくなるでしょう。
希望する働き方を実現できれば、仕事や職場に対する満足度も向上します。仕事は人生において少なくない部分を占める要素のため、幸福度の向上にもつながるでしょう。
また、無理のない働き方の実現により、心身両面の健康を維持しやすくなるのもメリットです。健康でいることは、希望する生き方を実現し、幸福に生きることにもつながります。
社会のメリット
● 生きやすい社会の実現 ● 持続可能な社会の実現 ● 活力ある社会の実現 ● 社会問題の解決 |
ウェルビーイングに取り組む企業が増えることで、より生きやすい社会が実現します。また、各個人が能力を活かすことで、持続可能な社会の作り手が増え、活気あふれる魅力的な社会になることもメリットです。
個々が能力を発揮し、生きやすさを実感できると、いじめや自殺といった社会問題の解決の糸口にもつながります。よりよい社会を実現するためにも、企業がウェルビーイングの実現に取り組むことが重要といえるでしょう。
企業がウェルビーイングを実現する方法
企業がウェルビーイングを
実現する方法
企業がウェルビーイングを実現するためには、まずはウェルビーイングを実現しようとしている企業であることを社内に周知し、将来的なヴィジョンを従業員と共有することが必要です。その後、次のような方法でウェルビーイングの実現に取り組みます。
● 多様な働き方への対応
● 賃金や福利厚生の充実
● コミュニケーションの見直し
各方法を説明します。
多様な働き方への対応
従業員の心身の健康を維持するためにも、労働時間が適切か調べることが必要です。長時間労働が常態化している場合には、人員増強や業務分担・フローの見直しなども必要になります。
従業員が希望する働き方を実現するためにも、時短勤務やテレワークといった労働時間・場所のフレキシビリティを高める制度の導入も検討しましょう。また、有給休暇や育児休業は従業員の当然の権利であることを周知し、取得しやすい環境づくりも必要です。
賃金や福利厚生の充実
労働時間を短くしても、賃金が低ければ従業員の満足度は低くなります。場合によってはダブルワークの必要が生じ、生産性の低下や健康問題を招く恐れもあるでしょう。
労働に見合う十分な賃金を支給することも、ウェルビーイングの実現に不可欠な要素といえます。また、福利厚生制度を充実させ、心身の健康維持に寄与することも重要です。
コミュニケーションの見直し
社内コミュニケーションにも注目してみましょう。コミュニケーションが活発で、社内・部署内で連携がとれていると、業務効率化を実現しやすくなります。
また、従業員の精神面を支えるためにも、社内コミュニケーションは必要です。リフレッシュスペースを設置する、チャットツールを導入するといった方法も検討してみましょう。
ウェルビーイング向上の企業取り組み事例
すでに多くの企業で、ウェルビーイング向上のための取り組みが始まっています。いくつか事例を紹介します。
男性の育児休暇取得をサポート
戸建住宅や分譲地開発、リフォームなど、住まい全般に関わる事業に広く取り組む積水ハウス株式会社では、2018年より男性の1ヶ月以上の育休取得を目指す取り組みを実施してきました。
育児についての理解が浸透し、助け合う風土が生まれ、チームワークが向上したという声もあります。
健康増進のための取り組みを社内で実施
グローバル自動車メーカー・トヨタ自動車の従業員が加入するトヨタ自動車健康保険組合では、2021年よりアプリを使用した肩こり解消に取り組んできました。
休憩時間や自宅での時間を活かして肩こり解消に役立つレッスンを受講したり、ウォーキングなどのエクササイズを実施したりすることで、肩こりの有訴者率が減少し、業務におけるパフォーマンスの改善が見られています。
従業員意識調査を企業の取り組みに反映
IT系システムを提供する明治安田システム・テクノロジー株式会社では、全従業員を対象とした「社員意識調査」を毎年実施しています。
仕事や職場、上司、会社に対する満足度、仕事の負担感などを把握するだけでなく、従業員の健康に関する意識についても調査し、企業方針の策定に活かしています。
ウェルビーイング実現のヒントを
「総務・人事・経理Week」で見つけよう
ウェルビーイング実現に取り組むことは、企業存続を左右する重要な要素ともいえます。従業員の働きやすさを向上し、魅力的な企業に成長するためにも、ウェルビーイングに注目してみてはいかがでしょうか。
ウェルビーイングの実現に向けた最新情報は、ぜひRX Japanが主催する展示会「総務・人事・経理Week」でご確認ください。
また、ウェルビーイング関連のサービスを開発・提供している企業の方には、「総務・人事・経理Week」への出展をおすすめします。
ウェルビーイングについて考えてみよう
ウェルビーイングに注目することは、企業が生き残るためにも不可欠な要素です。人材を確保し、生産性や利益率を向上させるためにも、今一度ウェルビーイングについて考えてみてはいかがでしょうか。
「総務・人事・経理Week」ではウェルビーイングの実現のヒントを提供しています。ウェルビーイング関連の情報を求める方、また、ウェルビーイング関連のサービスを提供している方も、ぜひ「総務・人事・経理Week」にご参加ください。
「総務・人事・経理Week」詳細はこちら
■監修者情報
黒野 正和(くろの まさかず)
株式会社ラシク代表取締役
日本郵便株式会社(旧 日本郵政公社)で13年間の勤務を経て独立、LACIQUEを創立。企業のSDGs導入支援をはじめ、メディア発信やブランド構築、企業理念浸透による従業員意識変容プログラムを展開。独自の「ウェルビーイング人財育成プログラム」を基に、チームビルディングやエンゲージメント向上の研修・セミナー、さらにポジティブ心理学を体系的に学べる「ラシクアカデミーのポジティブ心理学プラクティショナー養成講座」を開催。なお、ラシク社が支援する一般社団法人滋賀県老人福祉施設協議会が、ウェルビーイング・アワード2025において組織・チーム部門GOLD賞を受賞するなど、その実績は高く評価されている。
HP:https://www.lacique.com/