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アンガーマネジメントでハラスメントを恐れず部下が育つ職場へ|前編

更新日:2026年9月15日

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の施行以降、職場では「どこまで指導してよいのか」「叱ることがハラスメントと受け取られないか」と戸惑う声が増えています。一方で、必要な指導を避けてしまえば、部下や後輩の成長機会を失うことにもつながりかねません。

本セミナーでは、日本アンガーマネジメント協会フェローであり、アドット・コミュニケーション株式会社代表取締役の戸田久実氏が登壇。アンガーマネジメントの考え方をもとに、叱る目的や怒りの背景にある価値観をひも解きながら、ハラスメントを恐れずに相手の成長につながる指導を行うためのポイントについて詳しくお伝えします。

登壇者
戸田 久実(アドット・コミュニケーション(株)代表取締役/(一社)日本アンガーマネジメント協会 フェロー)

叱る目的は「相手の成長を願い、行動を改善してもらうこと」

まず確認しておきたいのは、そもそも「叱る目的」とは何かということです。

パワハラという言葉が広く知られるようになり、組織でも関連する教育が進んでいます。その一方で、「部下を叱ってはいけないのではないか」「指導したらパワハラだと言われるのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。

しかし、叱ること自体が悪いわけではありません。叱る目的は、相手の成長を願って、意識と行動を改善してもらうことです。さらに言えば、挽回への励ましも含まれます。「次からこう改善しよう」「この経験を次に活かそう」と、相手の行動変容につながることを伝え、次のチャンスも与える。それが本来の叱る目的です。

注意したいのは、怒りによってこの目的を見失ってしまうことです。ネガティブなフィードバックを伝えるとき、つい怒りの感情が関わってきます。イラッとした瞬間に相手を叩きのめすような言い方になってしまう。正論を掲げて論破し、やり込めて終わってしまう。そうなると、相手の成長や改善ではなく、自分の怒りをぶつけることが目的になってしまいます。

だからこそ、適切な指導のためにはアンガーマネジメントが欠かせません。
 

アンガーマネジメントは「怒らないこと」ではない

アンガーマネジメントとは、怒りと上手に付き合うための心理トレーニングです。

「あのとき、あんな怒り方をしなければよかった」と後悔することもあれば、「あのとき、きちんと怒っておけばよかった」と後悔することもあります。アンガーマネジメントは、怒りをなくすのではなく、怒る必要のあることは上手に怒ることができ、怒る必要のないことは怒らずに済むようになることを目指します。

そのために大切なのは、「怒る必要があること」と「怒る必要がないこと」を線引きし、必要な場面では適切な表現を選べるようになることです。

また、怒りは誰か、や出来事のせいで生まれるのではなく、自分自身が生み出した感情です。だからこそ、自分で扱うことができます。怒りをマネジメントするためには、その背景にある自分の価値観や「こうあるべき」に目を向けることが重要です。
 

怒りの背景にある「べき」に気づく

怒りの背景には、多くの場合、自分の中にある「べき」が関わっています。

「約束の期日は守るべきだ」「会議には時間通りに参加すべきだ」「決めた手順は守るべきだ」といった「べき」は、自分の理想や期待、大切にしている価値観を象徴するものです。そして、その「べき」が破られたときに、私たちは怒りを覚えます。

部下を指導するときも、自分や組織が大切にしている基準を相手が守っていないと感じるからこそ、叱る必要が出てきます。

ただし、「べき」は人それぞれ違います。自分にとっての「当たり前」や「常識」が、相手にとっても同じとは限りません。「普通こうするよね」「このくらい常識だ」といった言葉は、相手に押しつけや決めつけとして伝わる可能性もあります。

だからこそ、怒りを感じたときには、自分の「べき」と相手の「べき」は違うかもしれないと立ち止まって考えることが大切なのです。
 

「ちゃんと」「しっかり」は共通認識になっているか

「べき」は、人によって違うだけでなく、その程度も異なります。

たとえば、「ちゃんと確認しよう」「しっかり計画を立てよう」「丁寧に説明しよう」といった言葉は職場でよく使われます。しかし、自分が期待する「ちゃんと」と、相手が認識している「ちゃんと」が一致しているとは限りません。

「すぐに報告して」「早めに返信して」といった時間軸の言葉も同様です。どのくらいの時間を指すのか、人によって捉え方が異なることがあります。

価値観が多様化している今、曖昧な言葉だけでは共通認識になりにくくなっています。だからこそ、何をどの程度求めているのかを具体的に伝え、すり合わせる対話が必要です。

また、「べき」は時代や立場、働く環境によっても変わります。大切なのは、その違いを正しい・間違っているで裁くのではなく、互いにどう認識し、どうすり合わせていくかです。
 

怒る必要のあること・ないことを分ける「三重丸」

自分の「べき」を扱ううえでは、「べきの境界線」を明確にすることが有効です。

出典元:日本アンガーマネジメント協会

ここでは三重丸をイメージします。中心の1番は、自分の理想通りで怒りを感じない「許せるゾーン」。その外側の2番は、多少イラッとしても許容できる「まあ許せるゾーン」。さらに外側の3番は、直してほしい、伝える必要があると判断する「許せないゾーン」です。

この2番と3番の境界線が、怒る必要のあることと、怒る必要のないことを分ける基準になります。

大切なのは、2番の「まあ許せるゾーン」を設けることです。理想の1番しか持っていないと、少しでも外れた行動がすべて許せなくなり、イライラしやすくなります。「せめて」「少なくとも」「最低限」という言葉を手がかりに、どこまでなら許容できるかを言語化しておくことが大切です。

たとえば「相談するなら、ちゃんと考えてから来るべきだ」という場合も、「自分なりの考えを少しでも持って相談に来ていれば許容できる」「何の考えもなく丸投げする相談は伝える必要がある」といったように、境界線を具体的にしておくと判断しやすくなります。
 

基準は機嫌や相手によって変えない

べきの境界線を考えるうえで、もう一つ大切なのが、基準を一定にする、つまりぶらさないことです。

機嫌の良し悪しによって許容範囲が変わると、周囲には「今日は機嫌が悪い」「今日は機嫌がいい」ということだけが伝わってしまいます。本来伝えたい大切な基準や改善点ではなく、感情のムラだけが印象に残るのです。

また、同じ「べき」の境界線を当てはめる相手が複数いる場合、Aさんには許すけれどBさんには許さない、という対応をすると、不公平感や不信感につながります。同じ基準の中では、相手によってぶらさない努力が必要です。

ただし、能力や経験値によって、同じ「べき」でも複数の三重丸が存在することはあります。たとえば、営業職で「自分で掲げた予算は達成すべき」という基準がある場合、新入社員とベテランでは求める水準が異なって当然です。大切なのは、それぞれの経験値に応じた三重丸を設け、その同じ三重丸の中では基準をぶらさないことです。

そして、自分の「べき」や境界線は、言葉にしなければ相手に伝わりません。理想はこうで、少なくともここまではしてほしい、これはしないでほしい。そうした具体的な言葉で共有することが重要です。
 

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